UTMF2022 完走記(1)はこちら
U2麓〜U3身延町本栖湖|端足峠で心身が揺らぐ
本区間の距離は10.5kmであり、全体の中では2番目に短い。中盤にかけては緩やかな登りが続き、終盤には標高差約300mの急登が現れ、端足峠を越えて本栖湖へと下る構成となっている。累積距離は53.7kmに達する。
初の本格的な登り、端足峠に苦戦
初の本格的な登りである端足峠に苦戦を強いられた。登りへの切り替えがうまくいかず、夜間という状況も相まって、想像以上に身体が動かなかった。途中、何度も立ち止まり休憩を挟みながら、ようやく峠を越えた。下りも急斜面が続き、想定よりも大幅に時間を要した。
気分不良と「身延饅頭」の記憶
疲労困憊の状態でU3身延町本栖湖エイドに到着した。エイドの「おもてなし食」である身延饅頭を手に取ったが、気分が優れず、地面に座り込んでゆっくりと食べるほかなかった。まだ全体の1/3にも達していない時点で、すでにこれほど体調が悪くて完走できるのか――そんな不安が頭をよぎった。
「本栖湖エイドに入りました。気分が良くないので、少し長めに休憩します」
とメッセンジャーで報告した。
サポートとの連絡と心の揺れ
「次の精進湖で夕子さんの相方とタイム差が広がった場合、次回のサポートは富士急になります。本栖湖を出た時間と、精進湖までの通過を適宜連絡してもらえると助かります!精進湖→富士急→きらら→富士急と続くので、場合によっては富士急のみのサポートとなるかもしれません!すみません!」
モリジーは友人の夕子さんと共に、彼女の車で各エイドを回っている。夕子さんの相方選手のサポートが優先となるため、タイム差が開くと自分へのサポートが受けられない可能性があることは事前に知らされていた。
しかし、心身が弱っている状態でその現実に直面すると、精神的な支えを失ったような感覚に襲われた。
15分の休憩後、23日2時4分にU3身延町本栖湖エイドを出発。エイドのアウト時間をメッセンジャーに打ち込んだ。
U3身延町本栖湖〜U4富士河口湖町精進湖|腰の痛みと深夜の葛藤
本区間の距離は11.9kmであり、累積距離は65.6kmに達する。中ノ倉山(1,247m)、パノラマ台(1,328m)、烏帽子岳(1,257m)の三つのピークを越える構成である。
古傷の腰痛が再発、眠気との格闘
先月ヒビを入れた腰椎横突起の古傷が、ここにきて鈍く痛み出した。不安が的中し、「やはり無理だったのかもしれない」という思いが頭をよぎった。
深夜の時間帯、眠気にどうしても抗えず、登山道脇でタイマーを10分にセットし仮眠をとった。わずかな睡眠であっても意識は少しクリアになった。
やがて夜が明け、鳥たちの鳴き声が響き始める。パノラマ台に到着したのは、ちょうど夜明けのタイミングであった。UTMFのコースは富士山麓を巡るため、富士山の眺望に優れたポイントが随所にある。時間帯次第で、息をのむような絶景に出会えるのだ。
精進湖でのリタイアが脳裏をよぎる
気分の悪さ、疲労、眠気、そして腰痛という四重苦に苛まれ、U4富士河口湖町精進湖でリタイアしたいという思いが頭をもたげた。
「5時8分、腰椎横突起のヒビの古傷が痛み出してしまいました。今はパノラマ台を越えて烏帽子岳です」
とメッセンジャーで報告。
6時17分、U4精進湖に到着。
「腰が痛くなってしまい、大事をとってもうやめようかと思っている」
思わず弱気な言葉が口をついた。
「とりあえず、ゆっくり休んでから考えましょう」
モリジーは、はぐらかすようにやさしく言葉を返してくれた。
屋内の仮眠施設で15分だけ横になると、不思議なことに気持ちは自然とポジティブに転じていた。
「次の富士急ハイランドまでは行ってみます」
と伝え、再び立ち上がった。
U4富士河口湖町精進湖〜U5富士急ハイランド|走れる道、登れない山
本区間は22.7kmと、今回のレースにおける最長区間である。累積距離は88.3kmに達する。前半は国道139号線を約5.5kmにわたって緩やかに登り、鳴沢氷穴から林道に入り、紅葉台(1,164m)と足和田山(1,355m)を越え、山頂からの下りを経て市街地へと進む。
国道区間は意外と走れたが、山岳区間で再び気持ちが折れそうに
国道139号線の歩道に続く長い登りでは、走りと歩きを交互に繰り返した。休憩明けということもあり、意外なほど身体は動き、思いのほか走ることができた。
しかし林道に入ると、紅葉台から足和田山にかけての登りが再び脚を止めた。登りがまったく登れず、時間をかけてなんとか耐える展開となった。
この時点で区間の半分を越えたが、全体ではまだ半分にも届いていないことに気づき、気持ちは沈んだ。疲労困憊のなかで、「次の富士急ハイランドでリタイアしたい」という思いが強まりつつあった。
足和田山の通過時間をメッセンジャーで報告。
「9時45分、足和田山」
「無理ないペースで押してください!フルーツ大量入荷しましたよ!あとお稲荷もあります!」
足和田山を下り、街中へ。途中、自販機でドリンクを購入してリフレッシュした。
「富士急ハイランドまであと2km」
「ゆっくり来てください!日陰のスペースを押さえたので、ドロップバックを持って奥まで来てください!」
迷いの中の決意|支えがくれた前進の力
23日11時56分、富士急ハイランドに到着。ドロップバックを受け取り、サポートと合流する。ここでの作業は、防寒着とソックスの着替え、ライトの電池交換、そして未使用の補給食の入れ替えである。必要なタスクをサポートに伝え、すべて迅速に実行してもらった。
「真面目に止めようと思い始めている。先月ケガをした腰が痛い」
「ゆっくり休憩してから考えましょう。10年間の想いを持ってUTMFに臨んでいる神山さんの完走のために、僕はサポートしています!」
10年間、夢に見てきた舞台。その自分を、彼は全力で支えてくれている。満身創痍とはいえ、この状況で簡単に諦めてよいはずがない。「なんとしても完走してほしい」という彼の思いに、何も返すことができなかった。
「次の忍野でダメだったら、止めるかもしれない」
そう言い残し、富士急ハイランドを後にした。
続く