歴史ある百沢ルートから岩木山を目指す
先週末、青森県の名峰・岩木山に登ってきた。登路は、古くからの信仰登山道として知られる百沢(ひゃくさわ)ルートを選択し、山頂を踏んだのち嶽温泉へと下山するルートをたどった。
岩木山は津軽平野に聳える独立峰であり、その秀麗な山容から「津軽富士」と称されている。古来より山岳信仰の対象でもあり、登山道の起点となる岩木山神社は、奥日光にもたとえられる荘厳な佇まいである。
山容の美しさと展望の豊かさ
岩木山の山頂部は三つの峰からなり、漢字の「山」の文字のような形をしている。そのため遠望からも特徴的であり、津軽のランドマークとして長く親しまれてきた。
この日はあいにくの曇りがちの天候ではあったが、山頂からは八甲田連峰や白神山地、津軽半島の権現崎と十三湖、さらには七里長浜までを一望することができた。
煮干しらーめんと嶽きみの衝撃
今回の旅のもうひとつの楽しみは、地元ならではの食であった。
まず紹介したいのは、津軽のご当地グルメ「煮干しらーめん」である。訪れたのは、新青森駅から弘前駅に向かう途中、撫牛子(ないじょうし)駅にある「たかはし中華そば店」。ここは煮干しらーめんの名店として名高く、わざわざ途中下車してでも訪れる価値がある一軒である。
濃厚な煮干しスープに、モチモチとした自家製麺がよく絡み、ひと口すするたびに津軽の味が広がる。名店と称される理由が、ひと口で理解できた。
もうひとつの名物が「嶽きみ(だけきみ)」。これは岩木山山麓・嶽高原で栽培されるとうもろこしで、8月下旬から10月上旬にかけて旬を迎える。高原特有の昼夜の寒暖差により糖度が高く、ひと口でその甘さと瑞々しさに驚かされる逸品であった。単なるご当地野菜ではなく、強く印象に残る味わいである。近年では通販でも購入可能とのことで、多くの人に薦めたい味覚である。
ゆったりとした時間がくれた心の豊かさ
自宅から登山口まで、東北新幹線、奥羽本線、そしてバスを乗り継ぎ、片道6時間以上の道のりであった。だが、その長旅にも不思議と疲れは感じなかった。
岩木山神社での参拝を済ませた後、登山口近くの桜林公園の無料キャンプ場にてテント泊。時間に追われることのない、穏やかな夜を過ごした。翌日は早朝から登山を開始し、山頂からの展望と自然を堪能。下山後は嶽温泉で汗を流し、地元ならではの食で心と身体を満たした。
観光地を巡るだけの旅ではなく、山と食と湯を織り交ぜた「暮らすような旅」。それこそが心を豊かにする旅の形であると改めて感じた。慌ただしさとは無縁の、贅沢な週末だった。